めぐりめぐって春がくる

まるでそれは檻の様だった だが、檻なのに誰もが狙っている 自分はそこに無理やり座らされ 後ろから煩く言ってくる奴等の言葉に従う人形 だが、一度人形でなくなってしまえば 簡単に手や足、口が動かせた もう人形などではないのだと理解した それなのに未だにその檻は逃がしてくれない 自分で動くたびに更にその鉄格子を頑丈にする それならば、いい 俺はその檻で生きてやろう             ***  「・・・ありがとう、ございました」 千莉は頭を下げた。 窓際でつまらなそうに頬杖をついていた煉笙は その肩から前に垂らした髪をさらりと揺らし 片方の手で千莉の顎にそっと手を触れる 外では麗らかな春の陽射しが地面を照らし小鳥が囀っていた 「俺を、恨んでる?」 「いえ」 「でも行かせない方が千莉は幸せだったかもしれない」 その言葉に千莉はゆっくりと頭を横に振った 選んだのは私です。とその唇が動く 煉笙は眉をひそめ、だが「そう」とだけ呟いて また外をぼんやりと眺め始める 銀月が死んだと知らせが入ってすぐ、荀の軍は媛に攻め入り 荀は「刺客銀月」に関わる者を殺せという命令を出だした 零隆はすぐに千莉を連れこの国に逃げ帰って匿ってくれた 銀月には家族がいなかったので狙われているのは千莉だけだったが その荀のしつこさと言ったらなかった 千莉はどこか名前も何も変え隠れてしまおうと思ったが 零隆が引き止めこの屋敷で隠れ住めるように手配してくれたのだ そして今 千莉は自分を行かせてくれた煉笙に礼を言いに部屋を訪れていた 「・・・あの時、煉笙様はちゃんと断れる正当な理由を私にくれました」 「・・・・・」 「体を、と言ったのは私に拒否する理由を下さるためだったんですよね、多分。  服や働き量だったら簡単に頷ける  でも体となれば拒否をしても私に罪悪感は生まれないですから」 「でも・・・君は迷わず頷いた」 「少しでも迷ったら助けないつもりだったでしょう」 煉笙は少し目を丸くして、どこか確信めいた表情をする千莉を凝視し そしてくつくつと喉を鳴らした わかっていたのか、彼女には 「俺はね女の子には優しいんだよ」 「ええ、そうですね。確かに優しかったです  でも・・・対価が体と聞いて私あの時ほっとしました」 「何故?」 「この筑を対価に、と言われたら迷ったと思いますから」 「自分よりそんな楽器が大事なんておかしいね」 煉笙の言葉に千莉は寂しそうに笑って目を伏せた それを見て、この表情は苦手だと煉笙は思う こういう目をしてる時の彼女の頭にあるのはただ別の男の事だけだから 否。最も自分がただ単に彼女の笑う姿が好きだからかもしれない 千莉はそっと筑に手をあて口元を緩める 「おかしくありません。私にとったら銀月の分身のような物なんです」 銀月に家を焼かれ思い出の品は全て焼けてしまったあの時 唯一、残されたこの筑だけが共に過ごした長い年月を象徴してくれる 音色を聞けばひとつひとつ音を教えてくれた優しい声を思い出す 撫でれば、初めて筑をくれたあの日を思い出す 自分よりずっとずっと大事な物 瞠目する千莉に煉笙はあてていた手を顎から頬に移動させ 両手で頬を包み己に近づけ、額をこつんとぶつけると囁いた 僅かにその顔がくもっている 「こうなる事はわかっていたんだ。・・・やっぱり止めるべきだった  そんな辛そうな顔する君なんて見たくなかったよ  あの時やっぱり約束破ってでも手篭めにして  俺に溺れさせて行かないようにさせるべきだったなーわー楽しそー」 「・・・煉笙様が言うとぜんっぜん笑えません」 「冗談じゃないからね。本気だよ?」 「・・・・煉笙様は・・・銀月が刺客だと知ってましたね  媛に行く理由というのも」 「近くに置く子の身辺は一応把握しておきたいからさ」 けろりとそう言う煉笙に千莉は舌を巻いた まさかとは思っていたが、そこまで知っていたとは やっぱりこの人は全然わらからない 煉笙は苦笑して頬に軽い接吻を落とすと立ち上がった 驚きで固まった千莉を背後に言う 「この家にいる限り身は安全だよ」 「・・・・ありがとうございます」 「ところでそんな現在絶賛落ち込み中  いつもの笑顔はどこへやら。俺は前の方が好きだったー!な  君に相談なんだけれど」 「・・・・はい?」 なんだか凄く失礼な言い方をされ千莉はむっとしたが 煉笙がこうやって切り出すのは珍しいので大人しく耳を傾けた 「君荀の別宅に行かない?」 突然の話題転換に千莉は目を点にする 今、この男荀に行かないかと言っていなかっただろうか 正に今自分を狙っているという国にわざわざ乗り込んでいけと? 「零が今度そこの支部の店を任せられる事になったんだけれど  侍女を全くつけないでいくつもりらしいんだよねー  まぁあの子全然人付き合いうまくないし、俺みたいな社交性も無いし?  だからあまり知らない人間つけるのも嫌がらせみたいでかわいそうで・・・  あ、俺としては嫌がる零を見るのも可愛いから正直楽しいんだけれどさ」 「ひ、人でなし!」 「聞こえないなー。でもさすがにそれは可哀想だから  せめて親しい人つけてあげようと思ってね  別宅にも人はいるけれど、こっちからも人数送らないと大変だろう  仮にも本家次男様お引越しなんだし」 「・・・・・」 「心配しなくてもちゃんと匿うよ。それにむしろ荀の方が  この国よりも安心かもしれない。  身近な所の方が目は行き届かない物だからね。それに荀は広大な土地だ」 「でも、煉笙様」 千莉ははっと顔をあげた 零隆を理由にしてくれているだけで煉笙は更に千莉を 安全な場所に移してくれようとしている だがそこまで世話をかけさせてしまっていいのだろうか どう言えばいいのかわからず千莉がまごついていると煉笙が笑った 「零には今回の件でたくさん働いてもらったからね  少しは彼の苦労に報いてあげないと  あ、それでも千莉が俺を選んでくれるっていうなら俺は喜んで迎えるよー  やっぱり一度だけの関係じゃ寂しいしね」 「行きます」 「わ、相変わらずつれないな」 「・・・でも、必要だったらいます」 千莉の視線が机の上に置かれているたくさんの小瓶に向かう 毎日飲まなければいけない多くの薬 千莉を匿う事になって心労もあるはずなのに 煉笙は振り返り目を伏せた。己の髪を手で遊びながら言う 「今に始まった事じゃない」 「けれど、」 「いいんだ。生きてるだけ儲けもん。ね?  それにねー俺人生かなり楽しんでるし  幸い薬買うお金もあるわけだしずっと幸運じゃない?」 「・・・確かに凄く楽しんでそうです」 「でしょ?」 「でも一人は不安です――――。っ、零隆様がいなくなって、  煉笙様本当は凄く寂しいはずなのに・・・  私は大して役に立てないかもしれませんけれどっ  少しくらいならお話相手になれると思います・・・  ・・・・・・・・・・たぶん」 「え、何その最後のたぶん、って」 「だって煉笙様の頭の回転についてけるか今ちょっと  不安だったんですよ!私にしてみたら煉笙様の言ってる事  半分くらいしか理解できない時あるんですよ!  接続詞おかしいんじゃないですかって言葉使うときあるし!  心まで真っ黒の煉笙様の言葉についてけるか、わかりませんもん!」 「酷い千莉!何だよその言い草!俺に失礼!」 「零隆様もほとんど?・・・全然?理解できてないって言うのに  私に全部わかる訳ないですって!」 「零までそんな事言ってたの!?わー俺、可哀想!  実の弟にまで理解されてないなんて!」   煉笙はぷんすか怒った。 その顔を見て千莉はくすりと笑う 「久しぶりに元気そうな顔しましたね、煉笙様」 「そう?」 「その零隆様の引越しの事で落ち込んでいたでしょう最近」 「・・・君ほどじゃない。千莉の方がずっと酷い顔してたよ」  「・・・そんな事ありませんよ」 「また会える別れと、もう会えない別れのどちらが辛いかなんて明確だろう」 庭にある池で何かが飛び跳ねる音がした 千莉の顔に暗い影が宿る 胸が、ぽっかり空いてしまった気分なのだ 本当のところまだ現実を理解できてない 死んだと人づてに聞いただけで自分はその亡骸さえ見てないのに 銀月の記憶はあの橋で消えていったものが最後なのに 死んだというのが悪い冗談みたいで でももう会えないんだと言われる度苦しかった 喉を掻き毟りたい衝動にかられるほどの寂しさ いっそ息を止めてしまえば この苦しみはなくなるんではないかという誘惑に何度もかられた でもできなかった もしかしたら銀月がまだ生きていて 帰って来てくれるんじゃないかと心の隅で信じているから 「無理はしなくていいんだ千莉。俺の前で無理に明るく振舞おうとしなくていい  その件も・・・俺は会おうと思えばすぐ会えるから大丈夫だよ」 「それでも、零隆様がいなくなるのは寂しいでしょう?」 「正直ね。かなりしんどい」 この家で煉笙の言動や行動に眉をひそめるものは多い 元々煉笙はその頭の回転の速さで普通の人間には 理解しづらい部分があるのだ その中で何だかんだ言って無条件で慕ってくれる(本人評価)零隆は 煉笙にとってはかなり重要なはずなのだ その零隆が長く家を空けるとなれば この家で煉笙を理解してくれる人間はいなくなってしまう 自分は零隆とまではいかなくても少しは近づく努力ができるはずだ だから煉笙が望むなら側にいようと思った どうせどう転んだって銀月はもう側にはいてくれない それならせめて力を貸してくれた煉笙に仕えようと思った 「さっさと結婚でもして奥さん貰って幸せにやってたら  迷わず零隆様についていくんですけれど」 「俺の近くにいたら銀月さんをまた裏切る事になるかもよ?」 「それは死ぬ気で阻止します」 「うーん、目が本気で怖いぞー」 すっと細められた目にびくりと煉笙が体を震わせる 千莉はひとつため息をつくと、躊躇いがちに唇を薄く開いた 「・・・・・・本当にいいんですか・・・?」 「零にもね、昨日君を連れてけって行ったら何度もそう聞かれたよ  本当にいいんですか?って  本当にあんないい弟持って俺ってすごく幸せ  それにこうやって心配してくれる世話係もいるし言う事なし  だからね、千莉を少しでも安全な場所に行かせたいんだよ」 「・・・・・」 煉笙はその口元に緩い弧を描き目を閉じた 本当に幸せだと思えるから言える (・・・それにきっと千莉は荀に行った方がいい) 安全だとか零隆の手伝いとか、そういう理由以外にもある きっと今が一番現実かどうか受け止められなくて 苦しんでいる千莉がこうやって気を使ってくれているのだ 充分とは言えないが、もう少しくらい手助けをしよう 千莉はゆっくりと煉笙に近づいていきその前に立つ 「・・・大丈夫、ですか」 「――――――」 「煉笙様は時々すごく難しく考えすぎるので  また私のために何かして下さろうとしているんでしょうけれど  もう充分なんですよ?銀月にまた会えて、思いを告げられて  それだけだって私の体ぐらいじゃ釣り合わないのに  これ以上してもらったら、私どうすればいいのか・・・  煉笙様は確かに人でなしですけれど、時々そこまでしなくても  って所までやるんで心配なんです。  もう、充分ですから少しくらい好き勝手言ったっていいんですよ  まぁ・・・私に零隆様ぐらいの役目が務まるかどうかは  全然これっぽちも自信ありませんけれど」 その言葉に煉笙は眉をひそめた 何かまずい事を言っただろうか、と千莉は一瞬不安になったが 謝りの言葉を言う前に煉笙の囁きが言葉を封じた 「・・・・・君は、酷い子だよ」 煉笙は手を伸ばしてその中に千莉を閉じ込めた 微かにその腕が震えている 慌ててそこから逃げようとしたが腕がそれを許さなかった 「どうせ他の男しか見てないくせして、そうやって優しくして来るんだから  君を好いて好き勝手やってる男はうまく利用すればいいんだ  下手に気遣うから勘違いする馬鹿がでる」 「っ・・・は、え、でもでも、別に私なんかがどうこうしたって  誰もそんな勘違いしませんって!杞憂ですよ、杞憂  煉笙様だって・・・」 「俺はしそうだね、勘違い。本当は君が俺を銀月さんより  好きでいてくれてるんじゃないかって」 「・・・ありえません、いえ、別にだからって煉笙様が  嫌いだとかそういうのじゃないですよ?でも銀月は別格なんです」 「わかってるよ。でも・・・勘違いしたくなるんだ」 正直本当は荀にも行って欲しくない。 零隆も行ってそれで彼女まで行ったらさすがに寂しすぎる だが、それでも手放そうとするのは多分 色々な正当な理由と、そして己の身勝手な思い (・・・嫌われるのが恐くて遠くに置こうとするなんて  馬鹿だけれどね、ほんと) 本気で自分は彼女に嫌われるのを恐がっているのだ 今更、と笑ってしまうが千莉は煉笙を理解してくれようとする 大事な一人であるのは確かだから。 自分の行動をわかろうとしてくれた人だから。 零隆に嫌われるのと同じくらい恐いのだ だが、時折彼女はそんな事も知らないで己を揺らす そのギリギリの線に手引きする。まるで越えろというかのように 「・・・煉笙様」 「俺も不思議だよ。何でよりにもよって君なのか  もうちょっと綺麗な子とかでもいいのに」 「それどういう意味ですか」 「そのまんま。どうして特別綺麗とか可愛いとか  そういう子じゃないのにこんなに好きになっちゃったんだか  しかも会った時から好きな人がすでにいて  他は眼中にないっていうのにさー。あーあ俺も馬鹿だよねぇ」 「好きって・・・・あのですね、言っておきますけれど  今適当にふざけてそんな事言っても無駄ですからね  煉笙様の戯言には慣れてきましたから反応も面白くないですよ」 「うん、そうだろうねー」 適当に答えながら煉笙は心底溜息をつきたい気分になった 全部冗談・戯言で取られているってどうなんだろう自分 今までの行動を振り返ると仕方の無い事だと思うが、少し切ない でもこれでいいのだ。余計な物には気づかなくていい それにどうせ己は彼女の荀行きを変えるつもりもない ― 嘘を吐く事には慣れたはずだ ― 調子を取り戻した煉笙はその細い指先で千莉の唇に触れた 「じゃぁまたお代という事でその唇でどう?」 「いちいちお代とかで無理しなくていいですよ煉笙様  私なんかじゃしたって楽しくも何ともないでしょう  今思うと銀月も物好きですよね・・・私なんか好きになってくれて  やっぱり長年の餌付けと若さとお買い得物件のアピールが効いたんでしょうか」 あはは、と笑いながらそう言って千莉は離れようとする が、それもまた煉笙によって阻止された 両肩が掴まれ無理やり引き寄せられる 一瞬 その視界に映った煉笙の瞳に 銀月の、最後の夜と同じ色がうずまいたのを見た はっと千莉は息を呑む 煉笙は唇を重ねる直前低い声で囁いた 苦笑いの混じる、声だった 「俺はどうやらその物好きらしいな」             *** 最後だとわかった夜、口づけをしてきた銀月も 同じような目をしていた 何か悟っているような目だ 何を もう会えない事を? わからない でも その意味の全てはもう確かめられない 千莉は与えられた部屋に駆け足で戻りその場でしゃがみこんだ 煉笙にまたもや唇を奪われたというショックよりも あの目を見てまた銀月を思い出したのが辛かった 全然、状況も何も違うはずなのに 銀月に関して誰を恨めばいいのかわからなかった 銀月を殺したという荀の王を恨めばいいのか 銀月を行かせた照葉を恨めばいいのか 銀月に話を持ってきた唐光を恨めばいいのか あの夜、あの目が何を伝えようとしていたのかすら わかっていないのに 「・・・・・っ、う」 何故煉笙は同じ目をしていたのだろう あの目は何を言おうとしているのだろう 煉笙は何を思って自分にあんなに優しくするのだろう 「私は・・・っ、私は・・・・」 銀月さえいればいいのに。 他の思いなんて全部捨てて、残像に縋り付いていたかったのに だが煉笙は無理やり銀月のいない今に引き戻そうとする 先に進ませようとする お節介だ。大馬鹿だ それがどれだけ残酷なのか知っているはずなのに 「・・・銀月、」 あの夜銀月は千莉の髪を撫でながら優しく囁いた 一糸纏わぬ姿になって銀月に抱かれ幸せを感じながら。 それなのに目の前の別れを銀月は言う 『長いさよならをするだけだよ』 銀月も残酷だ。なぜ彼のいない明日を、これからを、 千莉に突きつけようとするのか 帰ってくるね。と嘘だけでも言えばいいのに そうすれば千莉は待っていられる 『君はこれから長い年月を生きるんだ  楽しい事も、悲しい事もたくさんあるだろうけれど  僕を追うのだけは駄目だよ  一人くらい僕を覚えててくれる人がいないと寂しいから』 それでていて後を追う事も許してくれない 果てしなく長く続く海に一人だけ突き落として ― 私だけを孤独にして ― 「哀しんでるだけ・・・泣いてるだけが、一番楽なのに」 前を見させようとしないで 先に進ませようとしないで このままでどうかいさせて              *** その一週間後、零隆が荀に向けて旅立つ日 千莉はその少人数編成の部隊の中にいた だが今だけそこから離れ、あの日から話さなかった煉笙に話しにいくために 館の離れへと向かっていた ドアを開けると珍しく朝早いのに煉笙は起きていた といっても相変わらず寝台の上にいる 千莉は近づいていって寝台の側で膝をついた 「朝のお薬はもう飲みましたか?」 「あー・・・まだだったかなぁ」 「駄目ですよ。はい、これ。ちゃんと飲んでください」 「はいはい」 千莉は引き出しから薬を取り出し水を用意すると煉笙に手渡した 煉笙は仕方なさそうな顔をしてそれを受け取ると いくつもの薬をいっぺんに流し込む そして眉をよせた 「相変わらず苦いよね、この薬」 「さあ。私は飲んだ事がないのでなんとも」 「知らなくていいよ。人間の食べ物じゃない」 手をひらひら振って煉笙はそう言った 窓の外では早起きな小鳥がさえずっている 千莉は目を伏せ、そして瞠目する 「・・・行ってみます、荀に」 「・・・・・・」 「現実を、見ます」 「・・・・・ああ」 「ずっと立ち止まってる方が楽なんですけれど  銀月のためにもきっと進まないといけないんです」 あれからずっとぐるぐる考えていた 誰か一人くらい覚えていてくれないと寂しい、 でも前に進めと背中を押した銀月は何を思ったのだろう 千莉にどうして欲しかったのだろう まだそれはわからなかったが、きっと自分との思い出にしがみついて 千莉に現実を忘れて欲しかった訳ではないはずだ だから、行く 前に進む。楽な方には逃げない 「・・・でも、煉笙様も寂しくなったら呼んで下さい  ちゃんと戻ってきますから」 「・・・・」 「せめて零隆様のお役に立てるよう頑張ってきますね」 「――――千莉っ」 離れようとする千莉の腕を慌てて掴んだ 千莉が振り返る 煉笙は一瞬言いよどんで、唇を噛んだ 伝えたい言葉はたくさんあるはずなのに やっと出てきた言葉はありふれた物だった 「・・・・・さようなら」 それしか言えなかった。言うべき言葉はそれだけだった 千莉はその言葉に笑顔で応えた だがそれは同じように別れを告げる言葉ではなkった 「行ってきます」 ぱたんと扉が閉じられ煉笙は顔を覆う はは、と力ない笑みを漏らした 「行ってきます、なんて・・・また帰ってくるみたいじゃないか  俺は“さようなら”と言ったんだよ千莉」 知らず涙が溢れて頬を伝った 手放したのは己なのに 何故こんなにも辛いのだろう (ああ、そうか) 本当に好きなのだ彼女が |第一部|小説目次|拍手|
第二部初っ端から暗すぎてごめんなさい。 そして主人公はこのまま千莉でいきます。 煉笙と零隆兄弟がさり気なく気に入っていて どこかで出張らせようと思い第二部前半はほとんど彼らの話です 好きなのにこの扱いは色々歪んだ愛情です。 こまめに続きは書いているのですが頭の中の妄想の速さに キーボードを打つ速さが追いつかず 読み返すと日本語がおかしくなってたりするのでそれを直したりすると やっぱり時間がかかってしまうんですよね・・・ 最後になりますが、第二部もどうぞよろしくお願いいたします。 (C)2008 Season Quartetto akikonomi
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