めぐりめぐって春がくる

今日も女の首を抱えた男は笑っていた もうしがみつくのは止めろ、と泣いて縋った でも男は聞こえないふりをしている 先に進め、こんな事してる暇はないだろう そう言うと男は怒った まだこうしていたいんだ これから先俺にどうしろっていうんだ ずっと望んでいたものを 己の手で壊してしまったというのに            *** 零隆はぼんやりと目を開けた 暗くしてある部屋の隙間から微かに明るい光が漏れていた 霞む視界をこすり両手を上に投げ出す そして寝返りをうった (そういえば今日は休みだった・・・) 布団にもぞもぞと潜り体を丸める 食事や風呂など最低限の事は千莉の協力で守ってこれたが 最近ずっと人間らしからぬ仕事量をこなしていたので すっかり疲れてしまったらしい 朝早く起きて朝稽古をして朝食を食べて夜は早く寝るなんて そんな生活はもうとっくの昔に終わってしまった 今といえば朝はなんとか自力で起きられるるものの まだ朝日も昇っていない頃から仕事に出て働いて そして夜まで大した休息もとらずぶっ通し 千莉がどんなに早くても朝ご飯と昼食を作ってもたせてくれるので 餓死という最悪の状態は免れているが 人間睡眠とらないと死ぬんだな、という実感は初めてだった それに比べれば今日は天国だ ゆっくり寝ていられる 片付ける暇がなく部屋に散らかっていた書類は千莉が整えてくれているし こまめに掃除もやってくれている あまり知らない人間に部屋をいじられるのが苦手だとわかっているのか なるべく千莉がこの部屋に関してはやっていてくれていたようだ 勿論それだって物の配置はあまり変えないように慎重だ (煉笙兄上には申し訳ないが・・・助かった) 自分つきの世話係にと千莉を推してきた時は驚いたが 煉笙なりに自分を思っての事だったのだろう (それに滝に言わせれば友人らしいからな) あれと友人とはなかなか微妙な気分だったが 媛にいく間はずっと一緒で屋敷でも顔を合わせていたからか それなりに信頼はできるようになっていた 向こうも己の性格をちゃんとわかってくれているので 仕事がやりやすく助かっている 零隆は体を逆のほうに転がした そして瞼を開けため息をつく (そろそろ起きないとな・・・今何時だろう) まだ覚醒しない頭を抱え体を起こす 部屋の窓を開けて見ると外がかなり明るい しかも屋敷が賑やかだ もしやこれはかなり長い時間寝ていたのでは、 休みだからゆっくり休みたいと思うのと同時に せっかくの休みの大半を布団で過ごすというのは嫌だ 慌てて夜着の上に軽く他の上着を羽織ると外に出ようと扉を開けると ちょうどそこを通りかかったらしい千莉と出くわした 「わ、びっくりしました。起きられたんですね  ちょうど今起こしに行こうと思っていたんでよかったです」 「・・・何時だ」 「もうお昼ですよ」 それを聞いて零隆は顔を青くする あの兄が日が高くなっても寝ていたのをどうこう言えた義理ではない 千莉は笑って零隆を部屋に戻し他の扉も開けはじめた 「さっぱりなさるかと思ってお風呂焚いておきました  お着替えはそちらに用意してあります  ご飯は今厨房が美味しい物作ってますから  後でこちらにお運びしますね」 「ああ。頼む」 「何かあったら近くの人に言って下さい」 「わかった」 零隆は頷き部屋を出て行く 寝すぎたせいか頭がふらふらした そんな感覚自体久しぶりなので嬉しい 湯殿に行きつかるとようやく頭がすっきりしてきた 顔を濡らし息をつく。無造作にぬれた髪をかきあげると 一人の侍女が控えめに入ってきて頭を下げた 「・・・なんだ」 「お伝えします。西家の方が是非若様に今日ご挨拶をしたいと  連絡がきておりますが、どういたしましょう」 「時間と場所は」 「申の刻にと。場所は柳町の料亭だそうです。いかがしますか」 「・・・行くと伝えてくれ」 侍女は頷くと出て行った 岩に背を預けため息をつく 折角の休みだと思っていたが、仕事はあるらしい まぁそれもそうだろう そもそもこの荀に支店を大きく立ち上げようとしたのは いよいよ荀が国土の統一に迫ってきたからだ 荀の王は土地の豪族の反乱を防ぐためこの荀の都に 無理やり呼び寄せ住まわせている しかも今までの王達がとってきていた封建制度から 郡県制へと支配の形を変えている所を見て統一国家が作られるのは そう遠くない話であると踏んだのだ もし統一国家となれば今までの貨幣・文字は全て統一されるだろう その情報をいち早く掴むためにもこの場所にいるのが必要だったのだ しかも豪族が集まるとなれば商人魂が騒がないはずもない 案の定地方からやってきた豪族たちは足りない物を 買い足したりするのによく利用する 今出た西家というのも有名な豪族の一家だった よく贔屓にしてもらっているので誘いを断る訳にはいかない 湯船からざばんと立ち上がると不意に体に張り付く物に気がついた それがハナミズキの花弁だと気づき上を見上げる 屋根こそあるものの、あとは木やなんだで囲まれている その風呂の脇に白いハナミズキが一本立っていた 桜も終わったこの時期ハナミズキの白と桃色の花は美しい (春が・・・終わるのか) (・・・彼女は進めるのか?) 銀月が死んだと聞いた直前の彼女は真っ青な顔で膝をついた 涙は既に枯れ切ってしまったのだろうか ただ両手を握り締めてはぁ、と一つ息を吐き しばらくその場で動かなかった 己はそんな姿を見て、ただそっとしておく事しかできなかった きっとその落ち込んだ状態が少なくとも一・二週間は続くだろうと思っていた だが次の日には普通に家を動き回っていて笑っていた 最初は驚いた物だが、時折暗い影が表情に浮かぶのを見て やはり相当な悲しみだったのだろうと思う この荀に来る事も、彼女にとっては辛かったはずだ 大切な人間のいない時間を踏み出すのは苦しいだろうに 零隆は服を着て濡れた髪の水分をふき取り ひとつに高い位置で結ぶと庭に出た そしてそのハナミズキの枝をぽきりと折る 部屋に戻ると千莉が昼餉を用意した状態で待っていた さっきまで寝ていたため汚かった寝台は 風呂に入っている間に整えてくれていたのか すっかり綺麗になっている 零隆は少し迷った後そのハナミズキを千莉に手渡した 「咲いていたんだ。飾っておいてくれ」 「これ、ハナミズキですよね?わー綺麗ですね  何処ら辺に飾りましょうか。寝台の脇にでも飾ります?」 「好きにしていい」 「好きにできないから聞いてるんですよ」 「じゃぁその小さい机の上にでもやっておいてくれ」 「わかりました」 千莉はすぐに花瓶を用意するとそれを部屋に飾った 満足そうに頷き椅子に座って昼餉を食べ始める零隆の髪を解き 丁寧に水気を取り始める 最初は嫌がった零隆だったが 効率よく時間を使うためと言われれば断る事ができなくなった そういえば、と話を切り出す 「夕方出かける所ができた」 「お忙しいですね」 「まぁ仕方が無い。あなたも来るか?荀に来て  まだ一度も外に出てないだろう  行く場所は料亭だからあまり心配はないだろうし」 「・・・・そうですか?お邪魔になりません?」 「どうせ誰かつけるようだから私は構わない」 ようやく大体乾き始めた髪を丁寧に梳かし さっきのように高い場所でひとつに纏める 相変わらず綺麗なその髪を羨ましげに眺め手を離した (荀の町・・・か) 「あれ、ちょっと待って下さい?という事は  私、私服なんですよね」 「そうなるな。さすがに侍女服はいただけない」 「・・・・私、まともにそんな場所に行ける服とか飾り  持ってませんよ・・・!服はまだいいとして  飾りなんか全部置いてきちゃったし、誰かに借りないとっ」 ぱっと侍女仲間の人の顔を思い浮かべていく どうせ必要ないと思っていたがまさかこんな所で 使う事になるとは思っていなかった 多分みんな快く貸してくれるとは思うが・・・どうだろう ふと零隆がある提案をした 「・・・それなら行きに買っていくか?」 「!いいんですか?」 「ひとつくらいはあってもいいだろう。どうせ  私も今日は休みだしな」 その提案に千莉はありがたく頷いた 街に出る事は躊躇われるが、零隆が一緒ならば安心できる気がした 千莉は飾ったハナミズキの花をつつきながら零隆を見る 「それまでどうしますか?出かけます?」 「いや・・・家で本でも読むつもりだ。休みたい」 「ふふ、わかりました。じゃぁお茶を淹れますね」 部屋にあった茶葉を茶器にいれ 水を沸かしはじめる その慣れた一連の動作を横目に零隆は棚から 本を一冊選び取り出した 新しく持ってきた本と前々から置いてあった本が 混じっているのでその差が激しい ころあいを見て火を止め千莉はゆっくり茶器に熱湯を注いだ そうして小さな器に入れて本を読み始めた零隆の隣に置く なるべく邪魔しないようにと部屋を出て行こうとすると 不意に零隆が口を開いた 視線だけは本の文字を追っている 「・・・もし辛くなったら、また愚痴を言ってくれて構わない」 「・・・・・?」 「自棄酒くらいまた付き合える」 そこまで言われてようやく千莉は 零隆が何を言いたいのかわかった 多分彼なりに気遣ってくれているのだろう 銀月を失った辛さで相当応えている千莉の事を。 銀月の事で一部始終を知っているのは煉笙と零隆だけだ 千莉は目を伏せて小さく笑った まだ実は死んだ事が信じられないんです、と言ったら 馬鹿だと言われるだろうか 千莉はなるべく零隆に心配をかけないように取り繕った 今大変なのは零隆のはずなのだ 過去に囚われつづけている自分より重要なのは 今を頑張って生きている零隆だ 「・・・・零隆様の愚痴も私ならいくらでも付き合いますよ  そうなったらいつでも言って下さい」 「・・・・・」 「失礼します」 ぱたん、と閉じられた扉の音を聞いて零隆は瞠目した 媛の屋敷で銀月の死を聞いた千莉を 自分はうまく慰められなかった どう声をかければいいのかわからなかったのだ 残念だった? ― だが死ぬのはもう刺客として行った時から決まっていた 気にするな? ― そんなの無理だ 普通にしようとしている千莉を見るたびに どう言えばいいのかわからなかった 本家に戻ってからも話を掘り返すのも、もしかしたら 彼女の辛い記憶を呼び戻すのではないかと何も言えなかった だが、忘れるはずなどないのだ 荀に共に来てくれた事は確かに先に進む一歩だったかもしれない けれど一人で消化して、一人でもがいて そうして疲れて死ぬのではないかと心配だった (あれだけ心のよりどころにしていた男が死んだんだ) 『本当に好きなんです』と、 そう言う時の表情はどんな時より幸せそうだった それぐらい人を思うというのはそんなに幸せなのだろうか 煉笙はあれぐらい愛されたいと言っていたが 己はそれぐらい誰かを愛してみたかった そしてそれ程まで愛した人間を失ったときどんな気持ちなのか 想像でしかわからないのがもどかしかった 「・・・わかったところで、私にできるのは  自棄酒に付き合う事ぐらいだろうけれどな」 しかも逆に己の愚痴を聞きますよ、と気まで遣われてしまった 溜息をついて茶に手を伸ばそうとする その時突然ばったばったと落ち着かない足音が外でしてきた 零隆は眉を寄せる (誰だ、こんなに騒がしいのは・・・) だがその足音は自分の部屋の前で止まり、零隆は 別の不安で眉間の皺を更に濃くした まさか・・・これは。いや、なんでこんな所に 気のせいだ。きっとこれは気のせいだ そう言い聞かせながらも零隆の体は窓に向かう、その瞬間 部屋の扉が乱暴に開かれた その背後には慌てた様子の千莉がいる 扉を乱暴に開けた男はにっと笑った 「零っくーん!いる!?」              *** 「ほんっっっと、すみません・・・!  護衛も兼ねてるのに止められませんでした・・・っ」 「いや、あれを止められたら逆に恐いから気にするな」 さっきからこんな状態で謝り続ける千莉に 心なしか頭痛のするこめかみを抑え零隆は首を振った どうやら突然屋敷に入り込んできて零隆の部屋に直行する男を見咎めた千莉は とんぼ返りで追いかけて戻ってきたらしい 一応守るのも仕事のうちであったからなんとか止めようとしたのだが その男は軽々と千莉の攻撃をかわしここまでやってきたようだ 千莉は新しい茶器と客用のお菓子を用意して机に置いた そして横目で誰だろう、と伺うが本家でも見たことの無い顔だ 零隆はふん、と鼻を鳴らすと言った 「私は生まれてから今でもこいつは人外だと信じている  私だってこいつには適わない」 その言葉に明るい茶色の髪をしたその男は 千莉の持ってきた菓子にいそいそと手を伸ばしながら 成人男性とは思えぬ仕草で抗議する 「えー酷いじゃん、何その言い草ー!  ちょっと零君?僕を何だと思ってんの?」 「人外」 「ひっど!零君の大事なお友達でしょー?  零君の5本指に入るお友達!  っていっても僕以外友達できてるの?」 「・・・・帰れ」 「あれ、そういえば母さんから女の子の友達が一人できたって  聞いたんだけれどその子は?あ、その子とあわせて  零君のお友達は二人になった訳だね!やったね!  これでやっと人として自信を持てるようになったじゃんっ」 「喧嘩を売ってるのか?わざわざこんな所にまで来て  私に喧嘩を売りに来たのか?帰れ!」 「ちょ、ちょっと待って下さい零隆様・・・!」 読んでいた本を投げつけようとする零隆を慌てて千莉は止めた さすがにお客様にそれはいけない 座っていた男は千莉を見て首を傾げた 「零君、この若い子どうしたの?わわ、そういう関係?  どうしよう!お赤飯炊かないと!お友達が出来た上に  恋人まで出来たんだね!完璧だよ!もう人間性に  充分自信を持っていい!僕が保証するよっ」 綺麗、でも可愛い、でもなく「若い」という言葉に かなり素直さを感じる。 (ふ、どうせ私の褒められる所なんて若いくらいよ) それさえ消えたら果たしてどうなるのか。 ・・・考えると少し哀しくなるのでやめることにする 「勝手に想像して勝手に人の人間性まで判断するな  この人は違う。ここで働いてもらっているだけだ」 「あ・・・、千莉と言います。こちらで零隆様の  世話役をさせてもらっています」 零隆の視線に気が付いて千莉は頭をぺこりと下げた すると男は面白そうな顔をする 「へえ。零君に世話役がいるなんてびっくりだよー  君昔から全部自分でやっちゃうじゃない?」 「・・・仕事が忙しくなって仕方が無かったんだ」 「ふぅん。あ、僕は公舜(こうしゅん)。零君の乳母子なんだよ」 零隆の乳母子、と聞いて千莉はああ、と声をあげた 「という事は・・・滝さんの息子さん?」 「あれ、母さんの事知ってんの?つー事は・・・ああ!!  零君のようやく出来た2人目のお友達!!はいはい  それで世話係・・・なるほど。この荀に来たのもそういう事か  わかった!全部繋がった!」 「・・・・」 「え、あの・・・」 公舜、と言った男は一人合点すると千莉の言葉にうんうんと頷いた その突飛な発言にたじろく千莉に 後ろで零隆が「気にするな。常にこんな感じだ」と微妙なフォローをいれる 「わかるわかる!僕も零君には随分お世話になったもんね!  零君小っちゃい頃は毎朝僕にご飯食べさせてくれてたよねっ  あーん、ってされた時はまるで小鳥の気分だったよ」 「え・・・」 「気持ち悪い言い方をするな公舜・・・!  毎朝低血圧なお前が折角作ってもらった朝餉を気持ち悪いからいいとか言うから  無理やり突っ込んだだけだろう!」 「あれーそうだっけ?」 へらへら笑う公舜を見て、「低血圧?」と 千莉は首を傾げたくなった。零隆が物静かなだけに 公舜が際立ってテンションが高く見える。まぁ、 朝の不機嫌さについては日々のテンションに比例しないのかもしれないが 公舜はふと笑うのをやめ、お茶を啜った 「いやぁそれにしても本当にお久しぶりだね零君」 「・・・・そうだな。どうして荀に?」 「僕もお仕事でこっちに来てたんだ。そうしたら  零君がここの支部長になったって言うじゃん?  だから折角だし顔会わせてからかって遊んで遊んで  からかって話してからかって、   それで存分に楽しんで帰ろうと思って・・・!」 「今すぐ帰れ」 かなり不純な動機の訪問に零隆のこめかみに 微かに青筋が立っている 一方の公舜は目をキラキラさせて楽しんでいた 身分で言えば絶対に零隆の方が上なのだが力関係は 明らか公舜に重きが置かれている 思わず千莉はくすくす笑った 「笑うな、千莉」 「いえ。だって、なんだか零隆様が年相応に見えて」 「・・・年下のお前には言われたくない」 「そうだよー君。零君が年より老けて見えるのは  産まれた時から始まった事なんだから今更だよ」 「悪かったな老けてて」 「もう、拗ねないの」 「心から否定させてもらうが拗ねてない  拗ねてるように見えてるとしたらお前の目がおかしいんだ」 「あれ、ホント?それは嫌だなーそう言えば最近  目がすぐに赤くなったりするんだよね」 「・・・大丈夫か?医者は?」 「んー行ったんだけれど別に平気だって言われて」 「一応私も医者に聞いておこう。無理はするなよ?」 「うん、わかってるよ。よろしくー」 「大した事ないといいんだが・・・」 「・・・ぶっ!あははははは!」 会話を聞きながら肩を震わせていた千莉はついに耐え切れずに噴出した 何故嫌味の「目がおかしいんだ」から真面目に 「医者に聞いておこう」という話になるのか。 おかしすぎる 何かが可笑しすぎる しかも意外に二人とも大真面目であるから 更に意味がわからない 笑うと零隆はむすっと不機嫌そうな顔をした 「何で笑ってる」 「だって・・・おかし・・・っ、」 「?面白い子だねー君。零君の新しいお友達、笑い上戸?」 「いや。いつもは違う」 面白いのは貴方達ですって・・・! 心の中でそう突っ込んで千莉は目じりを拭いた それを見ていた公舜はふと千莉の手を取った 「うんうん。なんか変な子だけれど気に入った!  零君の近くにこんな愉快な子がいるなんて僕は感激の極みだねっ  煉笙さんといい、この子といい、君の周りには  オモシロ人間が集まるねー。類は友を呼ぶってやつ?」 「そのオモシロ人間の筆頭に自分がいるのを忘れてないか?」 「やだな。褒められると照れちゃうよ」 「馬鹿を言ってろ」 容赦なく零隆の手が公舜の頭上を掠めた 千莉は器にお茶がなくなっているのを見て すぐに新しいお茶を継ぎ足した なんだか勝手にオモシロ人間に認定されているのは不本意だが いちいち否定するのも面倒なのでそのままにしておく (この人が零隆様の兄弟みたいに育った人なのよね・・・) 零隆のこの性格は公舜とのテンションバランスを 保つための物なのではないかと思った。否、絶対にそうだ 確かにこれで煉笙のような性格をしていて公舜と話していたら 話はすぐにあらぬ方(鬼畜方面)に行くに決まっている 何だかんだと楽しそうにしている零隆を見て千莉は呟いた 「仲がよろしいんですね」 思ったままを口にすると零隆は眉間の皺を濃くした 代わりに公舜がにこっと笑顔でこたえる 「でしょでしょ?よかったね、零君  僕等の仲のよさは彼女公認だよ!」 「迷惑だ」 「・・・照れてる・・・」 「何か言ったか千莉」 「い、いえっ何もっ」 「こら。女の子脅しちゃ駄目だよ零君?君よくわかってるねー  そう。全部僕への照れ隠しさ!」 「勝手に解釈するなっ」 「あ、千莉君。なんかお昼作ってもらえる?  僕こっち来てすぐこの屋敷来たから何も食べてなくて」 「え?・・・はい。わかりました。少し待っていてください  すぐにお持ちいたしますね」 「ありがとー」 出て行く千莉を見送って公舜は頬杖をついた 卓上の菓子をひとつ掴み口に運ぶ そして面白そうな顔をして零隆を見た 「あの子が例の刺客の育て子?」 「兼恋人らしい」 「君がわざわざ媛まで送ってあげたんでしょ?世話まで焼いて」 「兄上に頼まれてな」 「・・・・・・・・・・煉笙さんに?」 「ああ」 公舜は目をぱちくりさせた そして母である滝と同じようにからから笑う 「煉笙さん、それはまた面倒な子に興味持ったねー」 「いつもの“興味”じゃない」 「?」 「本気かどうかまではわからないが、興味だけじゃない。あれは  そうじゃなければ・・・自惚れる訳ではないが  わざわざ私をつけなかっただろう」 「・・・自惚れじゃなくても確かにそうだね。煉笙さん零君の事  かなり大事にしてるもん。僕も可愛がってもらったけどさ  でもその恋人が死んだ後も自分の手元に置かなかったんでしょ  じゃぁ普通にいつもの興味本位じゃないの?」 「・・・違う」 「何で?」 零隆は視線を伏せた。 違う気がした。煉笙は零隆の為にと千莉をここに来させたが その理由だけではないのだ。多分 それがきっと興味本位だけではないと己が言い切れる理由で また、兄を理解する一本の手がかりでもあるのだろう 零隆も今回彼女が荀に来る事は身の安全の確保に最適であると思うし 煉笙の自分への配慮もあったのだと思う (けれどそれじゃ足りない) それだけでも充分な理由ではないか、と公舜は言うだろうが もっと違うところに本質はある 自分など推測すら出来ないような何かが 「・・・そう。煉笙さんが入れ込んだ子なんだ」 「だと私は思う」 「じゃぁ君も大変だねえ。折角仲良くなったのに  もう他の男に心は奪われ、それも消えてよっしゃと思った所に  あの兄が恋敵っていう」 「・・・・滝もお前もどうしてそういう目で見る  言っておくがそういう関係では断じて無いからな  私はもっと無難な女性を狙う」 「狙うも何も君、どうせ政略結婚でしょ」 「・・・・」 手厳しいつっこみに零隆は詰まった この義理の兄弟は時々とんでもなくキツイのだ ヘラヘラしてるが人一倍その観察眼は厳しい 「まあ荀の王様をあまり怒らせないようにね  一人くらいはこの家で充分匿えるだろうけれど」 「ああ」 「そうだ、僕もしばらくここに泊めてもらっていい?  しばらくって言っても5日くらいだけれど  こっちの支部との連携の話でやらなくちゃいけない事があってさ」 「・・・私にできる事は」 「ないよ。零君は頑張ってお仕事に慣れて欲しいね  あ、折角だし煉笙さんにお手紙書こうかな  直接会えたらいいんだけれど、そっちに行く予定が無くてねー」 「そうしてくれ。兄上も喜ぶ」 零隆は本家にいる煉笙を思った 多分今はとても寂しいはずだから――――・・・ 己もなるべく手紙はこまめに出そうと思っているが なかなかうまく時間がとれないのが現状だ そう言えば千莉は煉笙に手紙を書いたのだろうか、 兄と千莉との橋渡しをするつもりだった訳ではないが、ふとそう思った 頭が良すぎるが故に一線を引かれている兄に あの屋敷は暗すぎる ||小説目次|拍手|
目指せせめて一週間に一度更新!(目標低い) けれど途中で断念するに一票! 話のテンション本当に低いですねー 書いている人間のテンションだけは無駄にいつも高いです 今はまだ第二部の布石を打っている感じなのでなかなか大きな展開はありません いえ・・・そんなのもの第一部もありませんでしたけれど。 もう少ししたらちゃんと話を動かせたらいいな。 (C)2008 Season Quartetto akikonomi
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