めぐりめぐって春がくる

火の中見つけたのは小さな女の子だった 【 闇に灯る花の名前 】 偶然そこを通っただけだった 僕が刺客集団を離れてから住んでいた家はもっと向こう側にあって ここまでやってきたのも考え事しながら歩いていて 気がついたらたどり着いていたのだ 考え事をしているとふらふら適当な所までやってくるので その日もそのパターンだった 目の前で赤々と燃える火の山を見ながら眉をひそめる (酷いな・・・) 最近近くで起こっている内紛の巻き沿いをくらったのだろう 家は黒く染まり燃え逃げ遅れた人々の叫びが聞こえた 刺客なんてやってるのにおかしな話だけれど あまり人が死ぬのを見るのは好きじゃない 近くの村の人が息をのんでそれを見つめている だが誰も助けに入らない それはそうだろう、誰だって恐いのだ 僕は近くの川で水を被ってとりあえず近くの家から まだ助かる見込みのある人を引きずり出してくる 柱の下敷きになってもう助けられない人もいた 煙を吸いすぎで意識が危うい人もいる 助け出したらあとは近くに野次馬で来ていた人に渡して それで命が助かればいいと思った 「あとはこの家か・・・」 なんとか入り口にはまだ火の手は来ていないが 周りの部分はほぼ全焼している もうここまでになっていると誰も生きてないかもしれない でも、その時僕は何を思ったのか同じように家に入ったのだ 「やっぱり誰も生きてる訳ないか・・・」 声をかけても返事がない。だがもしかしたら、て思って 火を避けながら奥まで入っていく すると何か倒れているのが見えた そしてその隣に立つ小さな影 それが小さな女の子だと気づくまでに、そして その倒れているのが人間だとわかるまで数秒かかった 「!!!」 慌てて近寄るとすでに彼女の両親は 倒れた柱の下敷きになって息絶えていた 屋根がみしり、と音を立てた 慌ててその女の子を抱き上げ家を出る それと同時に家は炎の海に飲み込まれるように崩れ落ちていった 「・・・危なかった・・・」 しばらく呆然としていると 野次馬で来ていた中年の女の人が心配して近寄ってきて 水を差し出してくれた 「いやぁ、あんた若いのに勇気あるねぇ!  あんたが助けた人みんな意識もはっきりしたよ。大丈夫そうだ!」 「よかった・・・」 「向こうで礼を言いたいってさ。助けられなかった人は  しょうがないけれどさ、あんた立派だよ」 それは気遣うようなものではなかった 気さくに笑って背中を叩かれた 不意に腕に抱えてた物が身動きした そういえばあの女の子を抱えっぱなしだったっけ 見ると焼けた家を見ながら必死に手を伸ばしている 「おかあさんっ!おとうさんぁんっ」 泣いてもがいて火の中に戻ろうとする それを慌てて引き止めて抱き上げその場を離れた よく見ればその子の肌は炭で真っ黒で怪我もしてる 自分の服の裾をちぎって水に浸し肌の炭をとってやり 近くにいた人に布を貰って怪我の手当てをした その間もその子は思い出しように大泣きしていた ようやく自体がわかったのだろう だがどう慰めればいいのかわからずそのまま汚れをとっていると 一人の男の人が近くにきてどかっと座った 知らない男だったけれど、多分野次馬でやってきたうちの 一人なのだろう。男は女の子を見て溜息をついた 「それにしても困ったね」 「?・・・何がですか?」 「この子親無しだろう?奉公先を探さないと  とてもじゃないがここらの村の人間じゃ養えないよ」 その人の言うように確かに続く戦争のせいで 村や町の人は食べるのに苦労していた だから誰も同情はしても引き取れないだろう そうなればどこかで働かなければいけないのは当然だ だが何を思ったのか僕は首を振った ほんの気まぐれだったのかもしれない 「いえ、この子は僕が引き取ります」 「・・・えっ、引き取るってお前さん・・・」 「一人くらい大丈夫です」 「そういう問題じゃなくて、お兄さんまだ16・7くらいだろ  そんなに若いのにこの子を育てるなんて・・・」 「まぁなんとかなると思いますよ」 笑って小さな女の子を抱き上げた どうせ今刺客集団の所から一時手を引いている 今までの働き分のお金もがっぽり分捕った・・・ いや、ちゃんと正当報酬として貰ったし、金銭面は問題ない それに家族もいなかったから誰にも面倒をかけないだろう そうして僕はその子を引き取る事にした その子の名前は、千莉と言った まだ4才の女の子だった             *** 「ねぇ千莉、ご飯だけれど食べる?」 「・・・・・・」 「食べるんだね。あ、その服持ってきてもらえるかな」 「・・・・・」 「はい、ありがとう」 あの日から彼女は固く口を閉ざしたままだった まるで言葉を忘れてしまったようだ、 そう思ったけれど言う言葉は理解できるみたいで 食事を用意すればちゃんと食べる、朝もちゃんと起きる いたって問題なかったからよかった 夜は不安なのかずっと抱きついて離れない 僕はそういう経験も初めてなので最初は戸惑ったけれど 抱きしめて一緒に布団に潜るとこてん、と寝始めた 一応懐かれてはいるのだろうけれどやっぱりまだ喋らなかった でも僕はそれでも満足だった 喋らなくても後ろを懸命に付いてきてくれた千莉が可愛いかったし 確かに表情が変わる時があったんだ ・・・すぐ見てわかるほどではなかったけれど そんなある日少し用事で朝早く家を出なければいけなくなった まだ寝ている千莉を起こすのが忍びなくて こっそり朝抜け出して家を出てしまった 今思うとあんな小さい子一人残して出て行くなんて なんて馬鹿だったんだろう、と思うけれど 小さい子に慣れてなかった若かりし僕はやってしまった 思った以上に仕事が長引いて家に帰ったのは夜だった 明かりがついてないのを見て不審に思った 勿論これもまだ4才の子が一人でそんな事できる訳ないって わかっていなかった訳なんだけれど (どうしたんだろう・・・) 部屋に入っていき明かりをつけると 部屋のすみで千莉が膝を抱えて丸まっていた 「千莉?」 「っ!!」 何かあったのかと思って呼びかけると 千莉は突然立ち上がって僕の方に駆けてきて抱きついた そのあまりの力の強さにびっくりする 寝る時も確かに抱きついて離れなかったが それの力の強さとは比べ物にならない 手を背中に回して抱き返すと千莉は泣き出した 「ぎんつきぃ、ぎんつきぃ」 「千莉・・・?」 「こわかったよぉ!ぎんつきぃ」 何回も僕の名前を呼んでわんわん泣いていた ここに来て初めて聞く声に感動したけれど 彼女はそれどころじゃないらしく、抱き上げて背中を優しく撫でても 全く力を弱めようとしない そういえば僕のいない間、彼女はずっと何をしていたんだろう この暗い部屋で一人ずっとああやって膝を抱えて 僕の帰りを待っててくれたのかな 暗い中で、一人 僕だけを頼りにしてくれているのにそれすらもなくなって 時折する風のざわめきに怯えたかもしれない 微かな物音にさえ身を震わせたかもしれない 「・・・ごめんね、千莉」 「!」 「大丈夫だよ。君を置きざりにはしないから」 今更自分のした馬鹿な行動に気がついて反省した ご飯は食べた?と聞けば首を横にふる と同時に千莉のお腹がぐう、と鳴った 「!」 「・・・!」 千莉は恥ずかしかったのか真っ赤になって顔を俯かせた なんだかおかしくなって笑う すると千莉は顔をあげて初めてすぐにわかる笑顔を見せてくれた 「わ・・・!千莉、笑ったねっ」 「?」 「声も聞けたし笑顔も見れたし、嬉しい事だらけだよ  ね、僕の名前もう一回呼んでみて?」 「・・・ぎんつき?」 「もう一回!」 「ぎんつき」 たどたどしい言葉で呼ばれるのが嬉しくて その日は何度も名前を呼ぶように頼んだ 一度声も笑顔も出るようになると表情はぐんと豊かになった 少し離れるだけですぐに名前を呼んで捜しにくる 物の名前を教えたり文字を教えたりして うまく書けた時や覚えていた時に誉めると はにかんだような、けれど嬉しそうな笑みをもらした 年の離れた妹が出来たみたいで嬉しかった 元々物心がついた時から家族がいなかったから いつも家にいて懐いてくれる千莉が可愛くて仕方なかった そのうち街の人とも仲良くなって 少し家を空ける時も誰かに預けるようになった 本当に満足だったのだ。 ただひとつ、不満に思った所があったのだけれど 「おとうさん!あれ、あのおかざりかって!  おはながたくさんついたやつっ」 「まだお前には早いだろう?」 「えー!かってよー!」 街中で露店を前にそんな問答を繰り返す親子を見て 手を繋いでいる千莉を見る けれど彼女は別に同じようにそういう物を欲しがる訳でもなく ただ視線で目の前を飛ぶ蝶を懸命に目で追っていた (うーん・・・そういえば千莉に何か頼まれた事あったかなぁ) なかなか物欲のない子で服も欲しがらないし飾りも欲しがらない あげると凄く喜ぶけれど、本人から「欲しい」とは言わなかった それが唯一の不満だった。いいな・・・やってみたい そうだ、ああやってお店の前で 『ぎんつき!わたし、あのかわいいかざりがほしいな』 『まだ千莉には早いよ?』 『えーかってよー!』 『ふふふ、仕方ないなぁ。特別にね』 ・・・・・素晴らしい!でも現実問題 千莉にそんな風に頼まれたら即効迷わないで買いそうだ たくさんねだられるのが醍醐味なのに・・・っ! (・・・って、まずは千莉がそんな事言う訳ないか) でもその千莉がある日一度だけその言葉を口にした ・・・いや、言わせた。の方が正しいのだけれど 僕は別に趣味という訳ではなかったけれど 教養の一貫として音楽をやっていた 久しぶりに納屋で筑を発見し、指の感覚で暗譜している曲を弾く するといつの間にいたのか千莉が目の前で目を輝かせて見ていた 「わぁ、すごい!きれいなおとがでるんだねっ」 「弾いてみる?」 「うんっ」 筑を差し出すと千莉は嬉しそうにひとつひとつ丁寧に弦をはじく その度に綺麗な音が出るのが楽しいのか 見よう見真似で適当に弦をはじいたりしている 寝る時間になってもずっと遊んでいたので一端片付けようとすると 珍しく千莉が残念そうな声を出した 「ぎんつき、もうちょっと」 「ずっと弾いてたら僕が眠れないよ」 「・・・・あとちょっと」 「駄目」 「おねがい、ぎんつき」 じっと見上げられてたじろいた この視線は苦手なのだ。甘やかしているつもりはないのだけれど 小さな妹を持った気分だとついついなんでも許してしまう 何でも、と言っても千莉はそんな我が儘は言ったりしないので これが初めてのおねだりなのだけれど (・・・・おねだり?) 初めてだ。千莉が何かやりたがっている これは「欲しい」を覚えさせるいい契機なのかもしれない 「ねぇ千莉、これがもう少し弾きたい?」 「うん!」 「でもさ。この筑僕はもう弾かないから売ろうと  思ってるんだよね」 「ええっ、うっちゃうの?だめだよ、ぎんつき」 「でも僕は必要ないし・・・千莉が欲しいんだったら  話は別なんだけれどな」 そう言うと千莉ははっとした 目線で訴えてくるけれど頑張って気づかないフリをする どうして何も「欲しい」と言ってくれないのかと 近くの茶屋を営んでいる雪花さんという人に相談した所 千莉が僕に助けてもらった恩があるから 困らせないように遠慮しているんじゃないかと言われたのだ でも僕は全然そんな遠慮いらないし、むしろねだってもらった方が 何が欲しいのかわかって楽だ。あの野望も叶えられる 千莉は困ったように視線を泳がせ、僕の袖をつい、と引っ張った (ず、ずるい・・・っ) 一瞬流されそうになった自分を頑張って引き戻し 何もわからないふりをする 千莉は作戦が失敗したのがわかって肩を落とした それを見てこのままじゃ何も言わないまま諦めてしまうかも、と 思い直して助け舟をだす 「千莉、これ欲しい?」 「・・・・・」 「欲しい?」 「・・・・・・・ほしい」 恐る恐る、と言った感じで千莉は呟いた やっと言ってくれたのが嬉しくて僕は笑って筑を差し出す すると千莉は「おこらないの?」と首を傾げた これだから可愛いのだ。 「馬鹿だね、どうして僕が怒るの?」 「だって・・・わたし、わがままいったよ」 「今のは我が儘じゃないよ。もし我が儘だとしても  千莉の我が儘だったら全部叶えてあげてもいい」 「・・・・・う」 「じゃぁ千莉。明日からそれの弾き方教えてあげるね」 千莉は自分の体より大きな筑を抱きしめふわりと笑った やっぱり僕は彼女の我が儘ならどんな事でも 聞いてしまいそうな気がする             *** それから数年が過ぎたある日、家に帰ると ―もうその頃にはちゃんと明かりをつけられるようになっていた― 机の上に夕飯が用意されていた そしてその隣で少し申し訳なさそうな顔をした千莉が ちょこんと椅子の上で膝を抱え座っている それは野菜の切り口などがばらばらだったりしたけれど 確かにそれは“夕飯”で 味は見た目とは違ってしっかり美味しかった 「美味しいよ」 「・・・・うそ、いわなくていいもん」 「嘘じゃないよ。凄く美味しい」 そう言うと何故か千莉はふくれた。 でも僕は料理が下手だったし、今まで千莉と食べていた物は 見た目がこんな感じで味も酷かった それに比べればずっとましだ だからこそ千莉は何かの使命感に駆られたのかもしれないのだけれど とにかく初日の彼女の試みは失敗したらしい うーん、美味しかったのになぁ 次の日も、また次の日も夕飯は千莉が作った そのうち朝早く起きて朝ご飯を作ったり 昼ご飯まで持たせてくれるようになっていた なんていい子なんだ。千莉が持たせてくれた昼食を 周りの人間に煩がられるぐらいに自慢したのは懐かしい話だ 何度も作るとコツも覚えるようですぐに千莉の 料理の腕はぐんぐん上達した 14を過ぎると普通に料亭で出せるような物になっていて 女の子って生まれたときにそういう能力を 持ってるんじゃないかと思って素直に感動したものだ ・・・まさかその時はわざわざ千莉が料理を誰かに 習いにいっているなんて思いもしなかったのだけれど そんなある日 久しぶりに刺客集団で組んでいた相棒に会うと 彼女は僕の顔みて驚いたように言った しかもその第一声が酷かった 「まだ生きてたのかい、銀月!」 「・・・・第一声がそれ?」 「だって、銀月家事とかボロクソじゃないか  だからといって放浪癖のある銀月が家に誰か雇うとは  思えないし・・・。とっくに死んでると思ってたよ  今日も一応来てみたけれどすぐ帰るつもりだったしね」 「本当に容赦ない言い様だね・・・」 ふと放浪癖、と言われて昔の自分の行動と 今の自分の行動を思い起こす (そういえば千莉と暮らし始めてからふらつかなくなったな) 家に帰れば必ず千莉が出迎えてくれる。必要としてくれる 誰かが待っててくれるんだ、と思うだけで心が弾んだ そもそもどこか決まった場所に帰るという考え自体が薄かったから 必ず帰らせてくれる千莉の存在は特別だった 「・・・うん、人は雇ってないけれど拾ってきた子と一緒に  暮らしてるんだよ。その子が家事とか全部やってくれるから」 「なんだいそれ!銀月が子育て?妄想じゃなくて?」 「失礼な。色々あって女の子を拾ったんだ」 あれからもっと背が伸びて、すっかり体つきも 顔つきも変わってきた千莉はそのうち 分担して二人でやっていた家の仕事まで全て やってくれるようになった おかげでかなり快適な生活を過ごさせてもらっている そう言うと相棒であった彼女は頭を抱えた 「それだけ聞くと犯罪者っぽいよ。・・・にしても  その子と出会えてよかったね銀月  あんたその子拾ったおかげで生きてるんだもんね!」 「・・・僕だって家事くらいできる」 「あのクソまずい飯食べてたりしたらやる気が失せまくりだよ  悪い事は言わないからその女の子をお嫁になんか  やっちゃだめだよ。もうそのまま時が来たら頂いちゃいなさい」 「ば・・・ばか言わないでよ!妹みたいには思ってるけれど  そんな邪な目で見た事ない!それにそんな事したら  千莉に嫌われるに決まってるっ!!」 そうだ。僕が千莉に持ってるのは兄としての心みたいな感じで 決してそんな邪なものじゃない でもお嫁にやるのはやだな・・・。はっ、千莉可愛いから 男わさわさくるよ。そんな獣みたいなのに可愛い千莉をやれるか! 駄目駄目。お嫁になんかやらないぞ 今ここで決めた。結婚は断固反対だ僕は 「・・・あのねぇ、その子かなり銀月には貴重な子なんじゃない?  あれだけあっちにふらふらこっちのにらふらしていたのが  ちゃんとひとつの家に帰ってるって言うんだから  しかもあんたの命を繋ぎとめてくれた子でしょ?  離れたら銀月冗談抜きで死ぬんじゃない?」 「・・・・・・だ、大丈夫。お嫁にはやらないって今決めた」 「ばかねぇ。そういう事言ってるんじゃないわよ  いいわ、私賭けてあげる。あんた絶対にその子に手出すわよ」 「・・・出さなかったら?」 「私に張り倒される権利をあげる」 「・・・出したら?」 「私が張り倒す権利をもつ」 「・・・・・。」 なんだかそれ僕にとっていい事ないんじゃ・・・。 そう思ったけれど怖くて言えなかった。どうしろっていうんだ でも確かに千莉がいなくなったら僕かなり生活困るんじゃないかな 千莉がやると僕がやるよりずっと家は綺麗になるし 服が生乾きとかそういう状態はなくなった 千莉のご飯食べた後で自分で作ったのを食べ続ける生活が続くのは 確かにすごくやる気の失せる話かもしれない あの日の気まぐれが思わぬ功を奏したらしい でも、千莉が一人でどんどん出来るようになっていく度 なんだか少し離れていくみたいで寂しい だから休みなったらなんとかして手伝おうと思った が。 「千莉。次の休みは僕がご飯も作るし家も掃除するし  洗濯も何も全部するから君はゆっくり休んでていいよ」 「わーありがとー!・・・って、だ、駄目だよ!銀月がやったら!  いいの!これは私が好きでやってるんだし  も、もう趣味みたいなものだから!趣味!」 「・・・趣味?」 「そう!す、すっごく楽しいんだからっ!だから  私の楽しみ奪っちゃだめ!銀月こそ久しぶりのお休みなんだから  ちゃんと休んでね?私の事気にしないで」 「・・・・・・。」 「ごめんねー銀月。でもほんっっとに楽しくってー」 (銀月にやらせたら駄目・・・!折角花嫁修業も兼ねて  日々の餌付けとかで頑張って点数を稼いでるのに  今銀月がやったら・・・それが全部台無しよっ) そんな千莉の心情も露知らず、僕は首を傾げた 趣味・・・。なんだか言い方が凄く怪しいけれど 趣味って言うからには趣味なのかもしれない それじゃぁ手伝いたくても駄目だよな・・・うーん でも休みなのに一人でぼーっとしているのも嫌だし そこで外を見るとなんだか心地のよい陽射しが ぽかぽかと地面を照らしていた そうだ 「じゃぁ千莉、こうしようか。次の休みは家事はお休みして  一緒に遠くまで行ってお花見しよう  野原で転がってお昼寝したら気持ちいいだろうね」 「お花見?」 「小さい頃はよく行ったけれど最近は全然行かなかったから」 そう言うと千莉の顔がぱっと明るくなる 「うん!じゃぁ美味しいお団子作るね。それからお弁当も作るよ」 その言葉通り当日彼女は手のこんだお弁当と 桃と白と緑の三色団子を作ってくれた 千莉がまだ小さい時よく行った桜並木の近くで布をひき腰を下ろす 千莉が昔のように僕の横にぴったりくっついで肩を寄せた 甘える動作が嬉しくて、しみじみ来てよかったと思う 「・・・あったかいね」 「うん。そうだね」 「いいな、こうやって銀月と一緒にのんびりするのすごく久々だよ」 「・・・なかなか一緒にいてあげられなくてごめんね」 「ふふ、だいじょうぶだよ。昔みたいに泣かなくなったでしょう?」 少し誇らしげにそういう千莉に僕は微妙な気分だった 確かにそうなんだけれど、それもちょっと寂しいというか・・・ できれば僕が少し離れただけで泣いて捜しに来た あの頃のままの彼女でいて欲しいというか 「本当に千莉はたくましくなってくね」 「・・・たくましい、じゃなくて成長した。って言ってよ」 「え、あ、ごめん」 「でも・・・多分今でも銀月が離れたら不安だし  遠くに行ったら泣いて追いかけるかもしれないよ  私銀月がいてくれないと駄目だから」 「・・・・・」 ここまで言って貰えるとなんだか照れる あの時気まぐれにしろ、千莉と出会って そして一緒に暮らし始めて本当によかった もぐもぐと千莉の作ってくれたお団子を口にいれる 最初に比べて随分料理の腕もあがったな、と思った ああ、こうやってずっと一緒に2人でいられたらいいのに 家に帰ったら千莉がいて、またこうやって出かけて たくさん名前を呼んでもらって、たくさん名前を呼んで 昔の僕では考えられなかったような幸せがこんなに溢れてるのに 「ねぇ、千莉」 「・・・・・ん?」 「来年の春も、再来年の春も、これからずーっと  一緒にこうやって桜見ながら  お団子食べれるといいね」 そう言うと千莉が笑った。春の陽だまりに照らされ その顔が少し薄い桃色に染まる ――――――っ 一瞬その頬に伸ばしかけた自分の手をおさえるた 今でもこんなに幸せなのに それ以上を望んだらきっとバチが当る あの日炎の中で見つけた小さな花は しだいに僕を惹きつけてやまなくなる その甘い香りが少しだけ心臓を掻き毟りたいほど苦しくて そして、とても狂おしい 【 END 】
銀月視点で小さい頃からのを書きたくて・・・! 千莉が嫁の座を狙うようになったのは かなり幼い頃からだと思います 本編中にも出てきたエピソードなどを全部拾いあげて 織り交ぜながら書けたらいいのですが己の欲望に 走り回った気がしてなりません。うっかりこのまま書きつづけたら 裏にまで手を出しそうなので危なかったー(汗) 男でも女でもずっと自分より大人の人に惹かれる構図が好きすぎる まさに千莉なんてその欲望の表れだね!(言うな) 本編題名の「めぐりめぐって春がくる」通り 一応全部の話が春に繋がってるようにしたいです (C)2008 Season Quartetto akikonomi
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